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東京高等裁判所 昭和63年(う)474号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二、五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

原審及び当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人山脇晢子作成名義の控訴趣意書に、これに対する答弁は、検察官吉川壽純作成名義の答弁書に記載されているとおりであるから、これらを引用する。

一  理由齟齬、理由不備をいう主張について

所論は、要するに、本件速度違反の測定に使用された原判示レーダ式車両速度測定機は、その本性・本質から誤測定の可能性を具有しており、本件においても、この可能性を否定できなかったのに、右測定機の測定結果に基づいて、原判示日時・場所における被告人車の速度を時速七五キロメートルと認定した原判決には理由齟齬あるいは理由不備がある、というのである。

しかしながら、原判決は、罪となるべき事実並びに有罪認定理由の補足及び弁護人の主張に対する判断の項で、本件速度測定に関して弁護人主張の誤測定の可能性はなかったと認めた理由を各論点について詳細に摘示しており、その間に食い違いのないことも明らかであるから、原判決に所論の理由齟齬あるいは理由不備があるとは認められない。論旨は理由がない。

二  事実誤認をいう主張について

(一)  所論は、原判決は、(1)本件速度測定時、被告人車の左後方約一〇メートルの原判示道路第一車線上に、速度を上げながら走行中の自動車があったのに、このような車両は存在しなかったと認定し、(2)本件速度測定時、右道路第二車線上を走行中の被告人車と同車線上の後続トラックとの車間距離は約二〇メートルであったのに、これを約五〇メートルであると認定し、(3)本件送受信アンテナから錦町方向約四六メートル及び約九七メートルの地点には凹凸があり、本件速度測定時における被告人車の位置は、右各地点である可能性が少なくないのに、これを右アンテナから錦町方向約六〇メートルの地点であると認定しており、事実誤認がある、というのである。

そこで、関係証拠を検討すると、原判決が、有罪認定理由及び弁護人の主張に対する判断の項において、本件速度測定時、被告人車(普通貨物自動車、バン型)の左後方約一〇メートルの第一車線上に、走行中の自動車は存在しなかったと認定した理由、本件速度測定時における被告人車と後続トラック(普通貨物自動車)との車間距離を約五〇メートルと認定した理由、本件速度測定時における被告人車の位置を本件送受信アンテナから錦町方向約六〇メートルの地点であると認定した理由を詳細説示するところは、当裁判所もこれを相当として是認することができる。

すなわち、原判決の認定事実に沿う内容のAの原審及び当審証言は、その内容が一貫しており、自然であるうえ、関係証拠により認められる本件速度測定現場の状況、本件速度測定機の性能及び設置状況、本件速度測定時(本件速度測定時とは、具体的にはAが本件速度測定機の保持ボタンを押した時点。以下同じ。なお、後記(四)参照。)前後の諸般の状況等に符合しており、合理的であること等にかんがみると、同人の証言の信用性を十分肯認することができるというべきである。

これに対し、被告人の原審公判廷における供述中、所論に沿う部分は、原判決も指摘するように目まぐるしく変遷し、矛盾点を包含するなど不自然であり、前示Aの原審及び当審証言と対比して到底これを信用することができない。

以上のとおり認められ、原判決がAの原審証言等関係証拠により、本件速度測定時、被告人車の左後方約一〇メートルの原判示道路第一車線上に、所論の自動車は存在しなかったと認定し、また、本件速度測定時、右道路第二車線上を走行中の被告人車と同車線上の後続トラックとの車間距離を約五〇メートルであったと認め、更に、本件速度測定時における被告人車の位置を本件送受信アンテナから錦町方向約六〇メートルの地点であると認めたことに所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

(二)  また、所論は、本件速度測定時、被告人車の左後方約一〇メートルの第一車線上に速度を上げながら走行中の自動車があり、また、第二車線上には被告人車の後方約二〇メートルの地点に被告人車より反射断面積の大きいトラックが走行していたから、本件速度測定機は、右自動車あるいはトラックからの反射電波を測定してその速度を計測した可能性があるのに、本件速度測定値(時速七五キロメートル)を被告人車のものであると認定した原判決には事実誤認がある、というのである。

しかしながら、所論のうち、第一車線を走行中の自動車による誤測定の可能性をいう部分は、前示のとおり、本件速度測定時、第一車線上に所論の自動車が存在しなかったと認められるからその前提を欠き理由がない。

そこで、所論のうち、後続トラックによる誤測定の可能性をいう部分について検討するに、A、B及びCの各原審証言、A及びDの各当審証言、E通信工業株式会社電波事業部作成のEY―0200型レーダ・スピード・チェッカー取扱説明書、同電波事業部電波工場サービス技術課長作成の「照会書に対する回答書」と題する書面、司法巡査作成の実況見分調書等の関係各証拠によれば、本件速度測定機のレーダ空中線の半値幅(ビーム幅)は垂直水平方向ともに一三度(プラスマイナス二度)で、ビームは涙滴・紡錘形をしていること、本件速度測定機の測定可能距離(確実に測定可能な平均的距離)は、投射角零度・中型乗用車で、受信感度を「遠」にした場合約七〇メートルから約五メートルであること、投射角は零度から一〇度であるが、投射角を一〇度方向へ移動させるに従って測定可能距離は短くなること、本件においては、投射角を一〇度に設定し、受信感度を「遠」にして測定したことが認められ、これらの諸点に、本件速度測定時における被告人車と後続トラックとの車間距離が前示のとおり約五〇メートルであったことを併せ考慮すると、本件の場合、測定可能距離は七〇メートルよりも短く、ビーム幅は送受信アンテナから三・五度ないし一六・五度の範囲に広がっており、被告人車が送受信アンテナから七〇メートル弱の測定可能距離内に入った時点では、後続トラックは送受信アンテナから一二〇メートル弱の第二車線上の送信電波のビーム幅の範囲内にきていたことが認められる。

しかして、前掲関係各証拠によれば、本件速度測定機の送信電波そのものは、その強度を問題にしなければ、測定可能距離以上に到達しており、たまたま反射電波が強いなど条件如何によっては、送受信アンテナから測定可能距離以上に離れた地点でも検知可能な場合があり得るけれども、同速度測定機の回路は、車両からの反射電波が正確な速度測定を行うのに十分な強さを有していて、レーダ送受信部で検出したドップラ信号(ドップラ周波数)が十分な振幅を持ち、かつ、これが連続している場合にのみ計測するように設計されていること、反射電波の強さは有効反射断面積に比例し距離の四乗に反比例するため、反射電波の強弱に影響する要素の中で距離の占める割合が極めて大きく、一台の車両が測定可能距離範囲内に入り、その反射電波を受信してドップラ信号を検出し始めたのち、同種車両が測定可能距離範囲内に進入してきても、送受信アンテナに近い先行車両の速度をそのまま測定し続け、その際、両車両の送受信アンテナからの距離の比率が一対一・五以上であれば、後続車両の影響を受けずに先行車両の速度を正確に測定するようになっていること、また、このように先行車両からの反射電波が後続車両からのそれよりも強い場合は、たまたま、何らかの原因で、先行車両からの反射電波よりも強い反射電波が後続車両から返ってきても、それは単位測定時間(〇・一秒)内での瞬間的な事象であって、測定可能範囲内(ビーム内)を走行中これが間断なく続くことはないうえ、このような電波を受信した当該単位測定時間については、ドップラ信号に乱れが生じ、これが不連続波となって計測が不能になることが認められるから、後続車両の速度を先行車両の速度であるように誤って測定することはないこと等が認められる。

以上の諸点及び本件速度測定時における被告人車と後続トラックとの送受信アンテナからの前示認定のとおりの各距離(被告人車約六〇メートル、後続トラック約一一〇メートル)に徴すると、本件速度測定時、被告人車と後続トラックの送受信アンテナからの距離の比率は一対一・五以上であったことが認められるから、被告人車と後続トラックの各有効反射断面積に速度測定の結果に影響を及ぼすほどの差がなかったとすれば、本件速度測定機は後続トラックの影響を受けることなく被告人車の速度を正確に測定したというべきであり、また、両車両の有効反射断面積に相当の差があったとしても、本件において、後続トラックの反射電波の強度が被告人車のそれを上回るためには、両車両の送受信アンテナからの前記認定距離に徴し、後続トラックは、計算上、被告人車の有効反射断面積の約一一・三倍の有効反射断面積を持つものであることが必要であるところ、本件後続トラックの反射断面積は弁護人主張によっても被告人車の約四倍(本件証拠を精査しても、本件後続トラックの反射断面積が弁護人主張のそれより大きいと認めるに足りる証跡はない。)というに過ぎないから、本件速度測定時、被告人車からの反射電波は後続トラックからのそれよりも相当強いものであったと認められる。また、このように被告人車からの反射電波が後続トラックからのそれよりも一般に強い場合は、仮に、本件速度測定時、何らかの原因で、被告人車からの反射電波より強い反射電波が後続トラックから返ってきたとしても、それは、前示のとおり、単位測定時間(〇・一秒)内での瞬間的な事象であり、このような電波を受診した当該単位測定時間については、ドップラ信号に乱れが生じ、これが不連続波となって、計測不能になることが認められるから、いずれにしても、本件速度測定時、本件速度測定機が後続トラックの速度を被告人車の速度のように誤って測定したとは認められない。

なお、所論は、仮に被告人車と後続トラックとの車間距離が約五〇メートルであったとしても、本件現場は中央分離帯上に丈が高く厚いグリーンベルトが続いているため、これに当たって反射した電波が直接波と合成されて遠くに強い電波域を作っていると考えられるから、本件速度測定機は、右の強い電波を反射した後続トラックの速度を測定した可能性が高い旨いうが、前掲関係各証拠によれば、本件の場合、仮に、このようなことがあったならば、それは単位測定時間(〇・一秒)内での瞬間的な事象であることが認められるので、前示のとおり、後続トラックからの強い電波を受信した当該単位測定時間については、ドップラ信号に乱れが生じ、これが不連続波となって計測が不能になった筈であり、後続トラックの速度を被告人車の速度のように誤って測定することはないというべきである。

Fの原審及び当審証言、同人作成のレーダ式車両速度測定における測定位置についての実験報告書及び「レーダ式車両速度測定における誤測定の可能性について」と題する書面も以上の認定を覆すに足るものではない。

以上のとおり検討したところに照らすと、本件速度測定時、本件速度測定機が測定したのは被告人車の速度であったと認められるから、本件速度測定値(時速七五キロメートル)を被告人車のものであると認定した原判決に所論の事実誤認はなく、論旨は理由がない。

(三)  所論は、更に、本件速度測定値は、本件速度測定機から発射された電波が、被告人車と前記第一車線車との間で第一車線車を媒介し、又は、被告人車と前記後続トラックとの間で後続トラックを媒介して被告人車に二重反射したものを受信し計測したために、プラス誤差が生じた数値になっている可能性があるのに、被告人車の速度を時速七五キロメートルと認定した原判決には事実誤認がある、というのである。

しかしながら、所論のうち、被告人車と第一車線車との間での二重反射による誤測定の可能性をいう部分は、本件速度測定時、第一車線上に所論の自動車は存在しなかったと認められること前示のとおりであるからその前提を欠き理由がない。

そこで、所論のうち、被告人車と後続トラックとの間での二重反射による誤測定の可能性をいう部分について検討すると、B及びCの各原審証言、Dの当審証言、雑誌「技術と人間」一九八四年四月号の抜粋(レーダ式速度測定機の誤測定の原因)及び同雑誌同年六月号の抜粋(レーダ式速度測定機の誤測定の原因・2)等関係各証拠によれば、反射媒介車両を介して測定対象車両に再び返ってきた電波、すなわち、二重反射電波をレーダが受信するためには、二重反射電波が測定対象車両からの直接反射電波よりも強いことが必要であるが、二重反射電波は、測定対象車両から反射媒介物までの距離による減衰、反射媒介物による反射損、反射媒介物から測定対象車両までの距離による減衰、測定対象車両による再度の反射損が加わるため、測定対象車両からの直接反射電波よりも一般的に弱いこと、従って、二重反射の影響は測定対象車両からの直接反射電波が弱くなった時間に現れ、二重反射した電波が作用するのは一測定時間(〇・一秒)内のごく一部分であること、本件速度測定機は、一測定時間中に、測定対象車両からの直接反射電波を受信してドップラ信号を検出中、直接反射電波よりも強い二重反射電波を受信した場合はもとより、直接反射電波が何らかの理由で弱くなりその瞬間に二重反射電波が相対的に強くなってこれが直接反射電波と入れ替わった場合も、ドップラ信号が乱れ、これが不連続波となって当該測定時間内での計測をしないように回路が設計されていること、また、一測定時間が終了する瞬間、たまたま測定対象車両から強い二重反射電波が返ってきて、これが直接反射電波と入れ替わり、その後も、継続して直接反射電波より強い二重反射電波を返してくるということは実際上あり得ないことが認められ、右の諸点及び本件速度測定時における被告人車と後続トラックとの間の前示距離、その位置関係、二重反射電波の経路、反射時における電波の拡散状況等にかんがみると、本件において、後続トラックを媒介にして被告人車から返ってきた二重反射電波は被告人車からの直接反射電波よりも強かったとはいえないうえ、仮に、一測定時間内に、直接反射電波より強い二重反射電波が返ってきたり、また、二重反射電波が直接反射電波に比して相対的に強くなったりして、これを受信することがあったならば、このような場合は、ドップラ信号が乱れ、不連続波となって当該測定時間内での計測は不能となって、結局、本件速度測定時の測定結果に影響を与えることはないことが認められるから、本件において、後続トラックを反射媒介物とする二重反射による誤測定の可能性はなかったというべきである。

Fの原審及び当審証言、同人作成のレーダ式車両速度測定における二重反射についての実験報告書及び「レーダ式車両速度測定における誤測定の可能性について」と題する書面も以上の認定を覆すに足りない。

以上のとおりであるから、本件において、後続トラックを反射媒介物とする二重反射による誤測定の可能性を否定し、原判決挙示の証拠により被告人車の速度を時速七五キロメートルと認定した原判決に事実誤認はなく、論旨は理由がない。

(四)  所論は、更にまた、仮に、本件速度測定値が被告人車の速度を測定したものであったとしても、本件速度測定場所付近の路面にはきわだった凹凸部分があり、被告人車が同所を走行した際、上下動により電波の反射中心が前に移動し、このため被告人車の速度にプラス誤差が生じた可能性があるから、被告人車の速度を時速七五キロメートルと認定した原判決には事実誤認がある、というのである。

そこで検討すると、弁護人作成の自動車の上下動に関する実験結果報告書等関係証拠によれば、なるほど、本件速度測定当時、本件道路第二車線上の、本件送受信アンテナから錦町方向約四六メートルの地点(N地点という。)及び約九六メートルの地点(F地点という。)に凹凸が存在していたことが認められるが、しかし、Aの原審及び当審証言、司法巡査作成の実況見分調書等関係各証拠によれば、A巡査が本件速度測定機の警報音を聞くと同時に保持ボタンを押して被告人車の速度を測定したのは、被告人車が送受信アンテナから錦町方向約六〇メートルの地点にあるときであることが認められるから、被告人車が、N地点を通過する時点では、すでに被告人車の速度測定は終了しており、同地点における上下動は本件速度測定に影響がなかったこと、また、F地点は右速度測定時に被告人車のあった地点より約三六メートルも以遠であり、F地点で被告人車が上下動したとしても、測定値には影響があるとは認められないこと、仮に、本件速度測定時に被告人車のあった地点まで右の上下動が継続していたとしても、前示のとおり、一測定時間内において電波の反射状態が急激に変化した場合は、ドップラ信号が乱れ、不連続波となって計測が不能となり、結局、本件速度測定時の測定結果には影響を及ぼさないことが認められるから、本件速度測定の結果が誤った速度を表示したものとはいえない。

なお、所論は、後続トラックもF地点で上下動を起こしており、これが測定された可能性がある旨いうが、前示のとおり、被告人車が本件速度測定時、前示地点にあったとき、後続トラックはその後方約五〇メートルの地点、すなわち、送受信アンテナから錦町方向約一一〇メートルの地点を走行中であり、未だF地点に到達していないことが認められるから、後続トラックがF地点で上下動を起こしたとしても、それは本件速度測定に全く影響がなかったというべきである。

Fの原審及び当審証言、同人作成の「レーダ式車両速度測定における誤測定の可能性について」と題する書面も右認定を左右するに足りない。

以上のとおり認められるから、本件速度測定値に所論のプラス誤差が生じた可能性はないとし、原判決挙示の証拠により被告人車の速度を時速七五キロメートルと認定した原判決に事実誤認はなく、論旨は理由がない。

三  公訴棄却をいう主張について

所論は、要するに、仮に、被告人が、本件において、指定最高速度をこえる速度で原判示自動車を運転したことが認められるとしても、右の超過違反速度が時速二五キロメートル以上であったことの証明はないから、右速度違反は道路交通法一二五条一項所定の反則行為に該当し、被告人は同条二項に定める反則者に当たるところ、本件公訴は、被告人に対する同法一三〇条所定の反則通告手続を履行しないで提起されているから、公訴提起の手続が右規定に違反し無効であるのに、原判決は、事実を誤認し、被告人車の本件超過違反速度を時速二五キロメートルであったと認定した結果、公訴を不法に受理したのであるから、本件公訴はこれを棄却すべきである、というのである。

しかし、前示のとおり、被告人が、本件において、指定最高速度を二五キロメートルこえる時速七五キロメートルの速度で原判示自動車を運転したと認定した原判決に事実誤認はないから、所論はその前提を欠き理由がない。

四  しかしながら、職権をもって調査すると、原判決は、以下に述べる理由により、結局破棄を免れない。すなわち、原判決は、昭和六三年三月一一日、原判示罪となるべき事実を認定したうえ、これに対し原判示法令を適用し、被告人を罰金二万円に処する旨判示して右刑を言い渡しているが、原判決が適用した道路交通法一一八条一項二号は、昭和六一年法律第六三号により、罰金刑の上限が五万円から一〇万円に改正され、右法律は、昭和六二年四月一日から施行されたところ、原判示事実は、昭和六〇年七月五日の犯行であるから、これに対しては、同法律附則三項により、同法による改正前の道路交通法一一八条一項二号を適用すべきである。しかるに、原判決は、右昭和六一年法律第六三号附則三項を挙示せず、単に道路交通法一一八条一項二号を適用するとしており、原判決を精査してみても、原判決が改正前の道路交通法一一八条一項二号を適用したと認め得る特段の理由はないから、原判決は、右改正後の道路交通法一一八条一項二号を適用したものと解せざるを得ず、法令の適用を誤ったものというべきところ、右法令の適用によって処断刑の上限が前示のように高くなるので、その誤りは判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、原判決は破棄を免れない。

そこで、刑訴法三九七条一項、三八〇条により、原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により、被告事件につき、更に次のとおり判決する。

(罪となるべき事実)

原判決の認定した罪となるべき事実と同一であるから、これを引用する。

(証拠の標目)《省略》

(法令の適用)

被告人の原判示所為は、昭和六一年法律第六三号附則三項により、同法による改正前の道路交通法一一八条一項二号、二二条一項、四条一項、同法施行令一条の二第一項に該当するので、所定刑中罰金刑を選択し、その所定金額の範囲内で、被告人を罰金一万五、〇〇〇円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二、五〇〇円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、原審及び当審における訴訟費用は、刑訴法一八一条一項本文によりこれを被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡田光了 裁判官 坂井智 生島三則)

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